東京地方裁判所 昭和36年(レ)597号 判決 1962年7月16日
控訴人 吉田はる子
被控訴人 神田ユリヱ
主文
本件控訴を却下する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
理由
本件記録によれば控訴人は、昭和三六年一一月一六日控訴状を当裁判所に提出して本件控訴を提起したこと、原審の判決正本は、被告(控訴人)の訴訟代理人弁護士中野峯夫に対し昭和三六年一一月一日当庁執行吏平山宗一郎代理鈴木昭が東京都千代田区霞ケ関一ノ一第二東京弁護士会において同会職員に交付して送達したことはいずれも明らかである。従つて、本件控訴は右送達の日から控訴期間たる二週間を経過した後になされたこととなる。
控訴代理人提出の上申書に左の趣旨の記載がある。
本件記録に編綴してある送達報告書には被告(控訴人)訴訟代理人である弁護士中野峯夫がその送達受取人として届出をしている第二東京弁護士会の事務員に対し原審判決正本が送達されたのは昭和三六年一一月一日となつているが、同弁護士が右事務員から受取つた右判決正本に押捺されている受領日付印は同月二日となつている。控訴代理人は右正本は同日送達されたものと考えて同日から起算し控訴期間内である同月一六日本件控訴を提起したのであるから、本件控訴は適法である。仮に本件控訴が控訴期間を経過した後になされたものであるとしても右のような事情の下にあつては、不変期間の徒過は控訴人はもとより控訴代理人の責に帰すべからざる事由によるものであるから民事訴訟法第一五九条の精神にしたがい本件控訴の提起は適法なものとして取扱われるべきである。
しかしながら、調査の結果によれば、弁護士中野峯夫は第二東京弁護士会に所属し、当庁執行吏役場に対して自己宛の訴訟に関する書類の送達は東京都千代田区霞ケ関一ノ一第二東京弁護士会長又は同会職員にされることを望む旨の届出がなされていることが認められる。右届出の趣旨とするところは、執行吏による訴訟書類の送達は、同弁護士会において、同弁護士会の職員に書類を交付してなされたい旨の意思表示と解されるから、右届出によつて、同弁護士に対する執行吏による訴訟書類に関する限り同弁護士会を以て民事訴訟法第一六九条第一項に規定する事務所と解するを相当とする。してみると右判決正本は前記執行吏によつて昭和三六年一一月一日適法に被告(控訴人)の訴訟代理人である同弁護士に送達されたものといわざるを得ないから、本件控訴は民事訴訟法第三六六条の控訴期間経過後に提起されたこととなる。また控訴代理人が主張するとおりの事情があつたからといつて、不変期間の徒過は、同法第一五九条にいわゆる「当事者の責に帰すべからざる事由によつて不変期間を遵守すること能わざりし場合」には該当せず、同条の精神にしたがつても本件控訴を適法のものとして取扱う余地はない。
以上のとおりであるから本件控訴は控訴期間を徒過してなされた不適法なものであり、その補正することができないものであるから同法第三八三条により本件控訴を却下することとし、訴訟費用の負担について同法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 西山要 中川哲男 岸本昌己)